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3-7.選ばれたハンターズ
 ひとまず4人はドームの扉の前に集まり、これからどうするかを話し合うことにした。

 マークが扉の前に陣取って地べたに腰を下ろし、3人に話し掛ける。
「これからのことだが、前に進むか、船に帰還するか……と言っても、この先に道なんかないけどな」
「私は進む」
 シーダがライフルを構えながら、真っ先に答えた。
「進むったって……どこへだ?」
 マークが身を乗り出してシーダに尋ねた。既に道なき道を、彼女は一体どこへ行こうと言うのだろう。
 シーダは他の3人を一通り見回すと、すぐ様顔を逸らし、セントラルドームの脇道に広がる空間を見た。しかし、そこは既にマークがチェックした場所で、奇妙な建造物がある以外何もないことが既にわかっている。
「知らない?」
「うん?」
 シーダの一言に、マークが疑問の声を上げる。すると彼女はドームの扉に視線を移しつつ、淡々とした口調で問いに答えた。
「『ここ』だけとでも?」
 彼女の話し方は、何か肝心な部分が抜け落ちたまま言葉を発する。フィオスが特に気になったのは、主語が抜けることが多い点だった。
「誰が、ここだけなんだ?」
 フィオスは不快そうに腕を組みつつ、シーダに尋ねた。
「アナタ達が」
「……何を?」
 フィオスの声に苛立ちの色が濃くなる。彼は彼なりにできるだけ感情を抑えるように努めているが、苦手意識からか、どうにも語気が強くなってしまう。
 しかし、シーダは何も見てないような眼を再び脇道に向け、一言、こう言い放った。
「情報を」
 すると業を煮やしたのかマークが立ち上がり、シーダの前に歩み寄った。
「オレ達が知らない情報があると?」
 シーダは首を縦に1回、壊れかけの人形のように振った。
 そして彼女はドームの扉の前を過ぎ、脇道の方へと歩き出した。3人は互いに顔を見合わせながら、彼女の後について行った。


 4人はドームの脇道に入ると、少し開けた空間に出た。その中央には腰の高さ程の小さな建造物。恐らくは何らかの端末のようだが、その使用目的をこの3人が知る由もない。
 シーダはその端末の前に立つと、操作パネルの前に両手を翳した。すると彼女の手元が赤く光り、シーダの左腕の端末から何らかのディスクが現れた。シーダは実体化したそれを手に取ると、操作パネルの下部へ差し込み、アンドロイドならではのキー入力の早さで何かを打ち込んだ。
 すると、端末の脇にヴ……ン……と低い音を立てて、突如大きな赤い光が現れた。それは赤い光を帯びた転送装置──フィオスが初めて見るものだった。

「どういうことだ?」
 マークがシーダに問い掛ける。シーダは相変わらず少ない言葉で3人に状況を説明した。
「この下に。ドラゴンがいる」
「は……!?」
 3人は突然耳に飛び込んできた、予想もしなかった単語に一瞬凍り付いた。フィオスも一声上げたまま、思考が止まった。
「ドラゴン……? ドラゴンってあの……?」
 ジョーは伝説の中で語られる幻獣の姿を想像した。
「ええ」
「何で、ドラゴン……?」
 ジョーの質問の意味は『何故こんな所にドラゴンが?』ということだったが、予想通りシーダの回答はずれる。
「任務だから」
「誰からの!」
 ジョーの声が徐々に大きくなって行く。会話が通じないことに苛立っているのではない。得体の知れぬものがこの装置の向こう側にいるという、突如降って沸いた脅威に声を荒らげずにはいられないのだ。
 その問いに、鋼鉄のアンドロイドは、相変わらず表情の読み取れない顔を3人に向けながら答えた。
「総督府の」

 総督府──パイオニア2の最高権力を持つ機関。パイオニア2を1つの国と仮定するなら、その国の統治を行い、パイオニア2全体を管理する政治機関。
 そして、その長に収まるのは、コリン=タイレル。あのレッドリング=リコの実父でもある。
 つまり、シーダはタイレル総督から直接依頼を受け、ラグオルの地に降りたハンターズだった。しかもただのハンターズではなく、その腕を総督府に見込まれたエリートということだったのだ。

「つまり、アンタは総督府の依頼でドラゴン退治に来たと?」
 マークの問いにシーダは首を左右に振った。
「ドラゴンの。更に向こう」
 シーダの言葉の真意はこの3人には理解できない。しかし、そのドラゴンを倒すことで、ラグオルの異変の真相に近づけるということなのだろう。
 ならば、その先へ進みたいとフィオスは思った。

 フィオスは意を決すると、転送装置の中に入ろうとした。
 ところが、シーダは少年ハンターを装置の中に入れまいと、彼の前に立ちはだかった。
「どうしたよ。行くんじゃないのか?」
 フィオスの目が座っている。彼はこの女レンジャーの動向がいちいち癇に障った。
「ヒューマンは。戻らない」
 アンドロイドの言葉の意図はわからない。が、ヒューマンはこの4人の中で2人──フィオスとマーク。この場合、彼女の言うヒューマンとは、未熟な方のハンターを指すのだろう。そして、これまでの経緯から察するに、彼女は自分がドラゴンと戦うには力不足だと言いたいのだと、フィオスはそう解釈した。
「本当に戻らないか、試してみるか?」
 フィオスが女レンジャーを挑発した。どうでもいい女にここまで見下されて、少年はいい加減頭に来ていた。

「俺も行く」
 そう言いながら、ジョーが転送装置の中に入った。彼もこのアンドロイドの認識の中では未熟者の部類に属する1人だ。
 そしてもう1人が転送装置に乗る。
「皆で行けばいいじゃないか」
 マークは背中の大剣を片手に抱えながら、装置の光の一番奥に立った。そして装置の手前に立つ2人に笑顔で手招きをしてきた。

 女レンジャーは顔を俯けた。やはりそこから彼女の心情は読み取れないが、その動作を見るに、彼女は皆の意見に不服があるのだろう。
 フィオスは黙ってシーダの横を通り過ぎると、歩きながら槍を実体化させ、マークの隣に立った。
 シーダは何も言わずに、転送装置の中に入った。
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